黒桟革(くろざんがわ)の何が特別なのか – 江戸時代から続く姫路の漆塗り革と国産黒毛和牛の融合

月にわずか数十枚しか生まれない、日本が世界に誇る希少革があります。
その名は「黒桟革(くろざんがわ)」。国産黒毛和牛の原皮を姫路の
伝統技法でなめし、その上に漆を一層ずつ手で塗り重ねてつくられます。
身につけると所作までも整うような、格の高い黒。本稿ではその歴史・素材・
工程・作り手を、現地で見てきた景色とともに丁寧にご紹介します。
黒桟革(くろざんがわ)とは

黒桟革は、革の上に漆(うるし)を一層ずつ塗り重ねてつくられる「漆塗り革」
の一種です。革本来のシボ(表面の凹凸)一粒一粒に漆が乗り、
光の当たる角度で艶がゆらぐ独特の表情を持ちます。ダイヤモンドを
散らしたような輝きから、職人の間では「ダイヤモンドカット」と称されることもあります。
月にわずか数十枚。一朝一夕には量産できない工程と技術が、
この革を稀有な存在にしています。同じ姫路レザーの一種ではありますが、
「黒桟革は漆を乗せる」という一点で他と大きく異なります。
黒桟革の歴史

黒桟革の起源は、江戸時代の武家甲冑や剣道防具にさかのぼります。
武士が身につける胴や籠手(こて)には、衝撃を受け止めながらも軽く、
そして雨や汗に強い革が求められました。そこで用いられたのが、
革に漆を塗り重ねる技法でした。
漆は硬化すると強靭な被膜を形成し、革の耐久性と防水性を同時に高めます。
また、繰り返し塗り重ねることで独特の艶が生まれ、身分の高い武家の
道具として珍重されました。現代においてはその実用性以上に、
「日本人の美意識」を体現する素材として静かに継承されています。
国産黒毛和牛の原皮

黒桟革の原皮には、国産黒毛和牛の革が用いられます。牛肉として食された和牛の
副産物である革を、余すことなく上質な素材へと生まれ変わらせる。
これは日本のものづくりが大切にしてきた循環の思想そのものです。
国産黒毛和牛の革は、繊維密度が高く、しっとりとした肉厚感を持つのが
特徴です。外国産の一般的な牛革と比較して、シボの粒立ちが揃いやすく、
漆を塗り重ねた際の表情に均整の取れた美しさが宿ります。「原皮の質は、
仕上がりの九割を決める」と職人は言います。
姫路の坂本商店

JapanMade屋の黒桟革は、兵庫県姫路市にある坂本商店で
仕上げられています。姫路は、古くから革のなめし産業が根付いた土地です。
市川の豊かな水と、明治以降に集積した皮革職人の技が、現代まで
途切れることなく受け継がれてきました。
坂本商店は、その姫路の中でも「漆を乗せられる革」をつくる数少ない工房の
ひとつです。訪問した際、工房には無数の革が吊るされ、静かに乾燥の時を
待っていました。音の少ない空気の中で、職人がひとつひとつの革を
検分する姿は、工業ではなく確かに手仕事の現場でした。
漆塗り工程

黒桟革の核心は、なめした革の上に漆を塗り重ねる工程にあります。
職人はまず、下地となる漆を革一枚ずつに手で塗り、湿度と温度を
管理した「風呂(ふろ)」と呼ばれる室で硬化させます。漆は湿度が一定で
ないと美しく固まらないため、気候によって職人が塗るタイミングを変えていきます。
この工程を何層にもわたって繰り返します。一層ごとに乾燥を待ち、
また塗る。急いで塗り重ねれば表情は濁り、時間をかけすぎれば革の風合いが
損なわれる。「早すぎず、遅すぎず」という職人の勘だけが、
あの独特のダイヤモンドの輝きを引き出します。

写真は、赤い漆を塗り重ねた黒桟革の表情です。革のシボ一粒一粒に漆が
乗り、光を反射して細かな粒が浮かび上がっているのが分かります。
この一粒一粒の輝きが、黒桟革が世界の職人からも愛される最大の理由です。
黒桟革の物性と美しさ

黒桟革の魅力は、視覚と触覚の両方に宿ります。見た目にはダイヤモンドカットの
ような細かな輝きが揺らぎ、触れれば革本来のしなやかさに漆の張りが
加わり、他のどんな革でも味わえない独特の質感を生みます。
また、漆によって強化された表面は、水濡れや擦れに対して通常の
革よりも高い耐久性を発揮します。長く使い込むほどに表面の漆が馴染み、
使う人だけの艶が育っていく点も、この革を「一生もの」として選ぶ理由になります。
Japan Made屋の黒桟革ショルダーバッグ

JapanMade屋では、この黒桟革を用いたショルダーバッグを
2サイズ展開しています。どちらもブラック・ブラウン・レッド・
インディゴの4色を揃え、日常のコーディネートに溶け込む佇まいを大切に仕立てました。
「黒桟革ショルダーバッグ」 (Regularサイズ)を見る
「 黒桟革ショルダーバッグ」(Largeサイズ)を見る
Regularサイズは、スマートフォンや長財布を収める日常使いに。
Largeサイズは、A5ノートやタブレットまで入る出張・
外出時にも頼れる大きさです。どちらも姫路レザーの一種としての
基礎的な品質を備えた上で、漆塗りの黒桟革ならではの格を身につけられます。
お手入れとエイジング
黒桟革は、その名の通り漆が表面を覆っている革です。そのため、
通常のレザーオイルやミンクオイル等の油分は塗らないでください。
漆の被膜を痛める原因となります。
普段のお手入れは、やわらかい乾いた布で表面のホコリを軽く拭き取るだけで
十分です。水滴が付いた場合はすぐに乾いた布で吸い取ってください。
長時間の水濡れは避け、雨天時には濡れない工夫をおすすめします。
また、保管の際は湿気の多い場所を避けてください。革全般に共通することで
すが、特に黒桟革の場合は湿気が漆の艶を損なう可能性があります。
使わない時期は風通しの良い場所で自然に呼吸させてあげるのが理想です。
そうして日々を共にすることで、漆と革の一粒一粒が持ち主の生活に馴染み、
他の誰も持ち得ない艶へと育っていきます。これが黒桟革を「一生もの」として選ぶ醍醐味です。
よくある質問
Q. 漆が剥がれることはありますか?
A.通常の使用範囲では、漆が剥がれるようなことはほぼありません。
ただし、鋭利なものと擦れたり、強い衝撃を長時間受けた場合は表面に傷が
入る可能性があります。その場合は坂本商店でのメンテナンスをご相談いただけます。
Q. 濡れてしまっても大丈夫ですか?
A.漆の表面は本来水に強い性質を持ちますので、少量の雨や水滴で急に
劣化することはありません。ただし濡れたまま放置すると縁や縫い目から水分が
革の内部に染み込む可能性があるため、濡れたらすぐに乾いた布で
拭き取ることをおすすめします。
Q. 修理はお願いできますか?
A.はい、JapanMade屋を通じて坂本商店に修理のご相談を
承ることができます。革を長く使っていただきたいという思想のもと、
縫い直しや金具交換、部分的な補修などご相談ください。
Q. 姫路レザーとの違いは?
A.姫路レザーは姫路でなめされた革全般を指す名称で、黒桟革はその中の
一種にあたります。「漆を塗り重ねる」という工程が加わる点が、
他の姫路レザーとの最大の違いです。姫路レザー全般については別のコラムで
詳しくご紹介しています。
参考
JapanMade屋: 黒桟革ショルダーバッグ(Regularサイズ)
J apanMade屋:黒桟革ショルダーバッグ(Largeサイズ)
