服の小話 Vol.6|世界でも希少に。スウェットを編む「吊り編み機」とは

私たちにとって、あまりにも身近な存在である「スウェット」。
秋冬になると自然と手が伸びる、楽に着られる服の代表格です。
しかし、そんな何気ない一着の裏側に、今では失われつつある古い機械と職人の技術が隠されていることをご存じでしょうか。
今回は、ヴィンテージスウェットにも通じる独特の柔らかさを生み出す「吊り編み機」についてご紹介します。
そもそも、スウェットはどこから生まれた?

スウェットのルーツをたどると、もともとはファッションではなく、アスリートのための機能服として誕生したとされています。
「Sweat=汗」という名前の通り、1920年代のアメリカで運動着として広まり、その後1950年代頃には大学名などをプリントしたスウェットが学生たちの間で人気に。
スポーツウェアからキャンパスウェアへ、そして現在では世界中で着られる日常着へ。
100年近い時間をかけて、スウェットは「運動するための服」から「誰もが着る服」へと変化していきました。
スウェットの暖かさを生む「裏側」

スウェットを選ぶとき、表側の見た目に目が行きがちですが、着心地や暖かさを大きく左右しているのが生地の裏側です。
代表的なのが「裏毛」と「裏起毛」。
裏毛は、裏側にループ状の糸が並んだ構造で、比較的通気性がよく、春や秋にも使いやすいのが特徴です。
一方、裏起毛はそのループを起毛させることで空気を含む層をつくり、体温を逃がしにくくします。そのため、冬場に適した高い保温性が生まれます。
なぜ昔のスウェットは、何十年経っても魅力があるのか?

1940〜60年代頃のアメリカ製ヴィンテージスウェット。
何十年も前につくられたにもかかわらず、現在でも生地に厚みや柔らかさが残り、独特の風合いを持つものがあります。
その背景にあるのが、当時使われていた**「吊り編み機」**です。
吊り編み機とは、その名の通り、機械自体を天井から吊るすように設置して生地を編み上げる旧式の編み機。
大きな特徴は、驚くほどの「遅さ」にあります。
1時間に、わずか約1メートル

現代の編み機が高速で生地を生産するのに対し、吊り編み機は1時間に約1メートルという非常にゆっくりとした速度で生地を編んでいきます。
なぜ、そこまでゆっくり編むのでしょうか。
ポイントは、糸に余計な負担をかけないこと。
吊り編み機は、糸そのものの重さを利用しながら、強く引っ張ることなく生地を編み上げていきます。
いわば、糸にとっての「ノーストレス」。
時間をかけてゆっくり編むことで、生地の中に空気を含んだような、ふっくらとした柔らかさが生まれます。
「非効率」だからこそ生まれるもの

当然ながら、生産効率だけを考えれば現代の高速編み機にはかないません。
しかし、その非効率さこそが吊り編みの魅力でもあります。
1時間に約1メートルという遅さ。
糸を無理に引っ張らない編み方。
この二つによって、ふっくらとした柔らかさと、長く着続けられる丈夫さを併せ持つ生地が生まれます。
速く、均一に、大量につくることが求められる現代だからこそ、時間をかけることでしか生み出せない風合いがあります。
今では、世界でも希少な存在に

そんな吊り編み機は、現在では非常に希少な存在になっています。
資料では、発祥の地であるアメリカでは現在稼働する機械はなく、和歌山県の工場に残る最後の数軒が、この非効率な機械を守り続けていると紹介されています。
しかも、機械は永久に動き続けるわけではありません。
古い機械だからこそ部品は少しずつ消耗し、一台、また一台と寿命を迎えていきます。
もし最後の機械がなくなってしまえば、同じ方法で生み出されてきた独特の風合いも失われてしまうかもしれません。
一枚のスウェットを見る目が、少し変わる

普段何気なく着ているスウェット。
けれど、その一枚がどんな機械で、どれだけの時間をかけ、どんな考え方でつくられているのかを知ると、服の見え方は少し変わります。
効率を求めれば、もっと速くつくることはできる。
それでも、あえて時間をかける。
そこには、数字だけでは測れない風合い、着心地、そしてものづくりの価値があります。
クローゼットにある一枚のスウェットも、背景を知ってから袖を通してみると、昨日までとは少し違って感じられるかもしれません。
「楽な服」の裏側には、決して楽ではないものづくりがある。
そんなことを思いながら、今年の秋冬はスウェットを楽しんでみてはいかがでしょうか。
